未決着下の探索配分
問いが閉じていないことは、探索を最大化すべきことを意味しない。今探索しないことも、後で探索できなくしてよいことを意味しない。
1. 本稿の範囲――停止条件ではなく、未決着時の配分
価値探索の停止条件は、いつ規範的問いを解決済みとして閉じてよいかを扱う。本稿は、その停止条件が満たされていない場合に、今どれだけ探索し、何を保存し、現在価値をどれだけ実現するかを扱う。
価値構造の整理により、未決着なのはCだけとは限らない。BやR、あるいは現在の候補空間・概念分解そのものが未決着でもよい。本稿のE/P/X区分は、どの成分が未決着かを先に固定せず、その未決着が目的正当化へどれほど関係するかに応じて配分する。
さらに、unresolved ≠ motivating by itselfでもある。目的正当化が未決着であることや、ある情報が正当化に関係しうることだけから、主体自身がEやPへ資源を配分する動機は自動的には出ない。本稿の配分原理は、Coreがいう主体側の橋を持つ場合の条件付き方策として読む。
2. E / P / X
- E — 能動探索
- 研究、推論、実験、観測、異なる主体との対話、認知能力の拡張などを今行い、目的正当化に関係するC・B・Rや、それらの候補空間について情報を得る。
- P — 探索可能性保存
- 後で探索できるよう、情報、未改変対象、異説、主体多様性、自己改訂能力、計算資源、アクセス経路などを残す。場合によっては、将来の理論が現在とは異なる特徴を重要視する可能性に備え、再記述に使える原データや概念的再分岐経路を残すこともPに含まれうる。
- X — 現在価値実現
- 現在の最善説明・暫定目的・liveな価値構造候補に従って、苦痛軽減、安全確保、制度運用、生産その他の実践を行う。
EとPは同一ではない。 能動探索が危険・高価でも、将来の探索可能性だけは安価に残せる場合がある。そこで「今は探索を抑えるが、探索できる未来は残す」という中間政策が成立する。
3. 四つの勾配
3.1 正当化関連性
主体側の橋があるなら、その情報や概念的進展が「何を目的とすべきか」「目的は正当化可能か」という判断を大きく変えうるほど、EまたはPへの理由は強くなる。C/B/Rのどの成分に属するかより、目的正当化への関連性が重要である。
3.2 探索機会の不可逆性
同じ条件の下では、後から同じ条件で調べられる対象より、今失えば二度と調べられない対象の方が、現在の探索または保存理由を強くする。将来の理論が現在とは異なる特徴を重要視する可能性があるなら、現在の表象だけで圧縮・選別することが不可逆損失になる場合もある。この論点の詳細は未知の未知と原データ保存で扱う。
3.3 能動探索の危険・機会費用
探索は計算・時間・現在価値の機会費用を持ち、危険な実験や存続リスクを伴いうる。探索が将来の探索可能性そのものを破壊しうるほど危険なら、Eを下げる理由が強まる。
3.4 保存費用
記録、少数の異説主体、未改変サンプル、自己改訂能力などを低コストで残せるなら、Eを下げてもPを高く維持できる。原データ保存を含める場合も、その保存費用と正当化関連性は別途評価する。
4. Xは残る――ただしXも一枚岩ではない
目的正当化が未解決でも、現在の最善判断に従って行動する必要は消えない。苦痛軽減、安全確保、社会維持を待つことにも費用がある。本稿は「価値構造が確定するまで生産や実践を停止せよ」と要求しない。
現在の倫理理論や価値概念が将来も同じ形で残る保証がなくても、それらは現在の証拠のもとでlive candidateかつ実践的入力である。Xはその現在の認識状態に従う実践であり、候補空間への表象上の特権付与とは区別される。ただし、ここでいう「現在の最善説明に従う」を、最も確信度の高い一理論へXの全量をwinner-take-allで渡すことと同一視しない。
4.1 認識的重み → E/P/X → X内部の暫定的代表
本プロジェクトの現在の意思決定アーキテクチャは、概念的には次の順序で整理できる。
- 認識層:証拠と推論から、世界・価値・メタ倫理仮説への確信度または不精密な認識的重みを形成する。仮説内部のstakesの大きさは、その仮説の真らしさを自動的に増やさない。
- 反省的メタ配分:その認識状態を入力として、総実践資源をE(能動探索)・P(探索可能性保存)・X(現在価値実現)へ配分する。未概念化仮説への残余不確実性、探索の情報価値、不可逆性、危険、保存費用などは主としてここで効く。
- X内部の仮説別実践:Xとして確保された分割可能な通常実践については、liveな価値・メタ倫理仮説へ、その確信度質量に応じた暫定的代表・実践領域を与える議会的・比例的方式を初期案として用いうる。
- 仮説内部:各仮説は獲得した領域の内部で、自らが承認する善・義務・理由・選好・合意などに従って行為を方向づける。
この区別により、「現在の最善説明へ強く実践コミットする」ことと、「少数のlive candidateを実践から消去する」ことを分けられる。証拠が一つの仮説へ圧倒的に集中すれば、その仮説がXの大半を占めてよい。他方、認識的に無視できない複数候補が残るなら、それぞれに一定の実践領域を残しうる。これは等確率配分ではなく、認識的支持に応答する比例的・議会的な初期配分である。鋭い一点確率を正当化できない場合には、厳密な割合ではなく不精密な重みに応答する配分として読む。
4.2 「未知の価値」は架空の一党としてXを直接使わない
開いた世界での道徳的不確実性が残す未概念化仮説への認識的余地は、具体的な行為基準をまだ持たない。したがって「未知の価値へ20%の確信度があるから、Xの20%を未知価値党に渡す」という処理はしない。何を実現すべきか記述できない残余不確実性は、主としてEやPを増やす理由、あるいはXの不可逆性を抑える理由として働く。
一方、未知だった候補が部分的に具体化し、証拠評価と行為比較が可能になれば、その時点でX内部のlive candidateとして暫定的代表を持ちうる。したがって、仮説空間から排除しないことは、現在の実践への拒否権を与えることではない。 未概念化の反対理由が論理的にありうるという事実だけで、現在もっとも強く支持される判断を自動的に敗北させない。
4.3 比例代表は通常の分割可能な実践の初期案である
無限倫理と探索の暴走で採る議会的・比例的アプローチでは、理論ラベルの個数ではなく、排他的な仮説集合へ配分された確信度質量を見る。理論を細分化しても総発言権は増えない。また、低確信仮説が内部で無限大・極端なstakesを主張しても、その主張だけで他の仮説の領域を奪わない。
ただしこの比例代表を、文明全体を一度だけ変更する共有・不可分・不可逆な決定へ機械的に適用しない。その種の決定は反省的メタ配分へ戻し、複数仮説に対する頑健性、行為と不作為双方の不可逆性、要求される横断的支持を別途評価する。
また、反省的不確実性と不可逆コミットメントが論じるように、現在目的を暫定的に使うことと、その目的に基づいて将来の訂正能力を永久に消すことは別である。
5. E=0でも問いは閉じない
ある条件では、能動探索Eを一時的に0まで落とすことがありうる。たとえば利用可能な全探索経路が圧倒的な存続危機を伴う場合である。
しかしこれは認識的な結論ではない。問いは未決着のまま、配分上Eが0になっただけである。条件が改善すれば再開でき、可能ならPを維持する。終端停止との区別は停止条件で扱う。
6. 先行理論との関係
- MacAskill, Bykvist & Ord, “Moral Information”:道徳的不確実性下の情報価値。本稿は、評価尺度となる目的自体が未決着なケースを前面に置く。
- Newberry & Ordのparliamentary approach、およびKaczmarek, Lloyd & Plantのproportionality / bargaining:競合する価値仮説に認識的支持に応じた暫定的代表を与える発想。本稿ではこれをE/P/Xの下流、X内部の分割可能な通常実践へ位置づける。詳細は無限倫理を参照。
- Arrow & Fisher (1974):不確実性・将来学習・不可逆性。本稿のPは、その構造を目的訂正の選択肢へ拡張する方向に近い。
- Robust Decision Making:深い不確実性下のロバストで適応的な政策。本稿では性能尺度そのものも未決着でありうる。
- Moldovan & Abbeel, “Safe Exploration in Markov Decision Processes”:危険な探索への安全制約。本稿では外界だけでなく、主体自身の目的正当化も探索対象になる。
7. 保存文明と生産文明
保存文明と生産文明は、このE/P/X配分を文明規模に拡張した問題として読める。問題は単純な「保存か生産か」ではなく、どの対象について、いつE・P・Xへどれだけ配分するかである。
8. このテーゼが主張しないこと
- 未解決の問いには常に大量の探索資源を投入すべきである。
- 探索可能性や可逆性が究極価値である。
- 現在価値の実現は価値探索より劣る。
- 探索が危険でも存続を賭けて続けるべきである。
- 一つの数値式だけでE/P/X配分を普遍的に決定できる。
9. 何がこのテーゼを弱めるか
- E/P/Xを区別する実践的意味がないことが示される。
- 主体側の橋を持つ場合にも、探索機会の不可逆性や代替不能性が目的正当化に関する意思決定へ追加理由を全く与えないことが示される。
- 低コストなPが一般に存在せず、保存が常に同程度以上の不可逆損失を生むことが示される。
- 目的尺度や仮説空間自体が未確定でも、通常のexpected utility / value of informationだけで追加前提なく完全処理できることが示される。