定言的規範性は発見されたか
1. Kantの問いはこのプロジェクトと近い
Kantの定言命法は、特定の欲求を満たすための「もしXならYせよ」という仮言命法とは異なり、合理的主体に無条件で妥当する原理を目指す。この企図そのものは、このサイトが探している「条件付き選好を越えた規範的拘束性」と近い。
2. 問題は概念ではなく、無条件性の認識的確立
「定言命法という概念を考えられる」ことと、「ある原理が実際に定言的であることを発見した」ことは別である。たとえば「合理的主体でありたいなら一貫せよ」「agencyを維持したいなら他者のagencyを尊重せよ」という議論が、何らかの上位目的を暗黙に条件としているなら、それは高度化された仮言命法に留まる可能性がある。
3. 現状の暫定判断
ここでは、Kantの企図が失敗したと断定しない。しかし、人類が無条件の規範的拘束性をすでに十分な強さで発見したとも判断しない。普遍化可能性、人格尊重、合理的一貫性は非常に強い実践原理になりうるが、その拘束力が認識論的最小基礎と同程度に与えられているかは別問題である。
4. 何が発見なら十分か
もしある将来の認識様式で、「私はそうしたいから」でも「合理的主体でありたいから」でもなく、ある理由がそれ自体で規範的拘束性を伴って現れるなら、それは価値探索の停止条件に近い強い候補になる。
反対に、どれほど魅力的な倫理体系でも、その最終的な力が選好・構成原理・合理性概念への条件付きでしか示されないなら、探索はなお開かれている。
5. Coreへの含意
この立場は反Kantではない。むしろ、Kantが設定した問題を保持しながら、その解答がすでに確定したとは扱わない。現在の倫理原理は強く実践利用できるが、それと不可逆な価値ロックインは区別する。
Sources / notes
Kantの定言命法の標準的整理については Stanford Encyclopedia of Philosophy, “Kant's Moral Philosophy” を参照。本ページはKant解釈そのものより、定言性の認識的地位を検討する。